データトラストの再構築に向けて

Author: Guy Pearce, CGEIT, CDPSE
Date Published: 23 January 2023
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外部監査人は、ビジネスコミュニティの信頼されるメンバーであるべきです。外部監査人は構造化データ(例えば、ログファイル、トランザクションレコード)および非構造化データ(例えば、インタビューの回答やレポート)を分析し、さまざまな事業体のサイバーセキュリティ、コンプライアンス、品質、財務に関するシステムおよびコントロールについて結論を導き出します。最終的には、事業体が適切に管理されているということを(場合によっては一般の人々に対して)保証することになります。

しかしながら、世界でも指折りの大手監査法人の中には、その最も重要な義務を果たすことに四苦八苦しているところもあります。それは、事業体の状態に関する独立情報の信頼できる情報源になることです。エンロンやワールドコムの不祥事は風化しておらず、つい最近も注目を集める事件があったばかりです。世界最大手の監査法人の1つが8億3,000万米ドルの訴訟を起こされ、不正行為の罪で告発されました1, 2 また、他にも2つの大手監査法人が不正行為で逮捕されました3, 4

監査がよりデータ中心になるにつれて、クライアント事業体が適切なデータマネジメントの実践手法に従わない場合、監査法人はリスクにさらされる可能性があります。データを重視する監査人にとって重大な問題は、クライアントのシステムによって取り込まれたデータおよびそのシステムによって使用されるデータ取得方法の信頼性(例えば、正確性、完全性)をどのように評価するかということです5。この問題は、監査人だけではなく、銀行、保険会社、証券取引業者、小売店、電気通信事業者はもちろん、ソーシャルメディアなど、人々がデータを預けるすべての事業体にさえも該当します。

データトラストドメインは、巨大なデジタルトラストドメインのサブセットに過ぎませんが、それでも広大です(図表1)。一般的にデータ管理が不十分な場合、特にデータ品質が低い場合、データトラストに悪影響を及ぼし、ひいてはデジタルトラストにも悪影響を及ぼしてしまいます。しかし、事業体には、データマネジメントの規律と信頼性の原則に基づいて全体的な信頼レベルを高めるために講じられる手順があります。

組織信頼の悲惨な状況

世界の信頼性は低下しています。その理由の一端は、不十分なデータマネジメントに関連する失敗にあります。Facebook-Cambridge Analyticaの不祥事は、プライバシーの観点で見た一例です6。実際、企業は最も信頼される組織形態で、その信頼性は NGO、政府、メディアよりも高くなっています7。しかしながら、全世界の実業界では信頼性の危機が訪れています。経営幹部の3分の2は、事業体のデータ悪用、企業の不祥事、事実の虚偽記載により、人、事業体、取引相手との間で信頼が低下していると考えています8

これは最近の現象ではありません。アメリカ政府の支持率は70年間低下し続けています9。2017年以降、信頼は企業、メディア、NGOでも同時に低下してきており、数十か国において4つの組織カテゴリすべてを組み合わせた中で平均信頼レベルは50%を割っています10

データトラストの悲惨な状況

デジタルトラストの文脈でデータトラストについて議論する場合、データを水、ITを配管に例えると分かりやすくなります。データトラストは、水が持ち運びできると信じることであり、ITの信頼性は配管が適切に機能していると信じることです。適切な配管がなければ水を流したり貯めたりすることができないように、ITがなければデータを流したり保存したりすることはできません。デジタルトラストは、データとITエコシステム全体を信頼することです。

「デジタルトラストは、デジタルコンテキストにおいて信頼がどのように現れるかに焦点を当てる」のに対し11、データトラストは、プライバシーおよびセキュリティのデータ構成要素などを含むが、それに限定されないデジタルエコシステムのデータコンテキストを対象とします。データトラストには、データ品質、メタデータマネジメント、マスターおよび参照データマネジメント、コンテンツ管理(非構造化データ)、データ消費メカニズム(例えば、レポート、分析、AI)などのデータマネジメント要素が含まれます。具体的に言うと、データトラストは、データマネジメント活動が検証可能な形で健全なデータを生成することを意味します。

4分の3を超える消費者は、事業体とのデータ共有が必要悪と考えています12。さらに悪いことに、消費者の78%は、事業体が自分のデータを保護してくれることへの信頼が過去2年間で同じまたは下降したと答えています13。最悪なのは、55%の事業体が、同じ期間において消費者からの信頼が増していると信じていることです14。事業体とその顧客との間には、データトラストに関して明らかに著しい不協和音が生じています。

サードパーティの個人データを使用すること(事業体が個人データを別の事業体から購入して自組織が保有する個人データを補強する)は、信頼低下の大きな原因とみなされました15 。これは、不正確なデータ、データ統合時の推測作業、場合によっては規則違反により、顧客を不正確に表示してしまうことにつながります。また、統合されたデータの購入、加工、利用がエンドユーザーに対して透明ではありません。透明性は、組織の信頼を築く(または再構築する)ための必須条件です16

しかしながら、信頼される事業体には透明性が必要とされていないことも重要です17 。むしろ、信頼されていない事業体の方にこそ、不信感を拭い去るために透明性が必要になります。現在、欧州中央銀行総裁であり、国際通貨基金(IMF)の前議長兼専務理事であった彼は、「私の経験では、失われた信頼を回復するための最良のカンフル剤は、透明性の向上です」と述べて、この思いを強くしています18。言い換えると、透明性が必要なのは信頼が失われた事業体であって、信頼が健在な事業体には必要ないのです。例えば、医療従事者は信頼のより所とみなされるため、医師の意見は、どのようにその意見に至ったかについての透明性を問われることなく信頼されます。

しかし、データトラストに関与するのは透明性だけではありません。価値の配分と結果(すなわち、人が事業体のデータ取り扱い手法に置く信頼)の受け入れも含まれます19 。結果の受け入れは、事業体の文化や管理構造を介して、特に説明責任と実行責任に関連する限りにおいて、データガバナンスは主要要素です。

データマネジメントのイニシアチブに取り組んでいる事業体に欠けている効果的なデータマネジメントには、多くの重要な属性があります。

データトラストは健全なデータが必要であり、健全なデータにはクリーン、適切にアクセス可能、理解可能、最新状態、追跡可能などの基準があります20。これらの基準はそれぞれ、効果的なデータマネジメントのサブセットとなります。言い換えると、十分に管理されたデータは、データトラストの原動力となります。不健全なデータ(すなわち、データマネジメントが不十分であるため、求められるレベルを下回る品質のデータ)は、データトラストのレベルを下げる原因となります。

データマネジメントの悲惨な状況

一般的に、データマネジメントは、健全なデータ環境に必要なタスクおよびアクティビティを詳述し、、データガバナンスは、定義されたポリシーに基づいて、通常は定義されたプロセスに関するタスクやアクティビティの説明責任および実行責任を定義します。いずれの要素も、事業体全体の戦略に沿ったデータ戦略に対応しています。

能力成熟度モデル研究所(CMMI)の調査によると、効果のないデータマネジメントは、調査対象のテクノロジー障害の100%に悪影響を与え、テクノロジーイニシアチブの失敗率は50%でした21。AIプロジェクトの失敗を引き起こす要素の学術研究はによると、初期の研究では、データマネジメントの問題を重大な要素として言及していることを発見しました22

こうした研究結果は、データマネジメントの処理面での失敗を示していますが、失敗は人やガバナンスの観点からも発生しています。例えば、2010年にはビッグデータが競争に勝つ鍵を握るという兆候がありましたが、事業体のリーダーが、データが一握りのデータ指向のマネージャーだけではなく、万人にとって重要であることを未だに認識していないため、そのような未来はまだ訪れていません23。それから10年が経ち、潮目はついに変わりつつあるかもしれません。メタデータ中心のデータファブリックプラットフォームや、データメッシュアーキテクチャのドメイン主導データ製品が徐々に増えることで、セルフサービスビジネスインテリジェンスやデータ民主化(「技術的ノウハウに関係なく」誰でもデータにアクセスできるようにして、適切な権限を付与すること)に新しくスポットライトが当たってきたからです24

こうした失敗が積もり積もった結果、データガバナンスプロジェクトの90%はパフォーマンスが芳しくありません25

データマネジメントの取り組みに悩んでいる事業体に欠けている効果的なデータマネジメントに重要な属性は以下のようなものがあります26, 27, 28

  • 経営幹部の支援
  • 測定可能な組織の価値に関連する明確な目標(全事業対の半分は、データガバナンスイニシアチブを査定、モニタリング、または測定していない)29
  • 関連するすべての利害関係者によって共有される共通言語と一貫した期待を含む統合されたデータ戦略
  • 集中とコミットメント(すなわち、単純作業ではなく有意義な作業に注意を払うこと)
  • 優先順位付けにより促進される管理可能なスコープ
  • 定義された業務の説明責任と実行責任および業務の成功に対する責任分担
  • データガバナンスおよびデータマネジメントの専門知識
  • データマネジメントが1つのプロジェクトではなく、継続的な業務責任であるという認識
  • ツールとテクノロジーをあからさまに重視するのではなく、バランスを取る
  • 最初からコミュニケーション、トランスフォーメーション、変更管理に焦点を絞る

これらの属性の多くは、データガバナンスに関連します。例えば、イギリス政府のコロナウイルスデータには不備があり、誤解を招き、一般人の理解や政府の意思決定に悪影響を与えました30。問題の1つは、技術的な誤作動と呼ばれ、国内のコロナウイルス感染者数の計算から数千件の陽性者数が除外されてしまいました。欠陥は、「あるデータファイルがファイル転送サイズの最大値を超えていた」ことであると言われます31。その他にも、再計算を必要とする数字の水増しなどの問題もありました。

このアセスメントを考慮すると、まだ質疑応答にあがっていないデータガバナンスの疑問は以下のとおりです。

  • ファイル転送の検証責任者は誰だったか?
  • ファイル特定およびデータ転送検証に関して検証責任者が従うべきプロセスは整備されていたか? 整備されていた場合、そのプロセスは承認されて いたか?
  • 計算プロセスは、特定の利害関係者によって検証 されたか?
  • 週末に備えた調整を含め、日付(例えば、報告日と死亡日)やデータの取得日などの変数に関して、明確に合意された定義はあったか?定義されていた場合、その定義は承認されていたか?
  • データ入力とデータ出力結果はどのようにして承認されたか?証明、または認定?(裏付け情報のないデータを提出することは、解釈がオブザーバーに委ねられることを意味します)

データマネジメント(プロセス)が健全であっても、データガバナンス(説明責任と検証)に不備があれば、データを信頼する作業はすべて水の泡になることを意味します。データが持続的に目的に合致するためには、データマネジメントとデータガバナンスとデータガバナンスが連携して機能する必要があります。

データマネジメント(プロセス)が健全であっても、データガバナンス(説明責任と検証)に不備があれば、データを信頼する作業はすべて水の泡になることを意味します。

データ品質の悲惨な状況

データトラストおよびデータマネジメントの悲惨な状況を考慮すると、データが不健全であってもおかしくはありません。データ品質が悪いせいで、アメリカ経済は2016年に3兆米ドルの代償を支払いました。そのコストの中心となったのは、意思決定者、マネージャー、知識労働者、データサイエンティストが日常業務中に不健全データの調整をせざるを得ませんでした32。各担当者による不健全データの調整には、意図した目的通りにデータを使用できるようにするためにデータを理解し、関連付け、準備することが含まれます。

ダーティデータ(不健全データのサブセット)の原因がすべての経済大国で類似していると仮定すると、2016年のすべての国におけるダーティデータのコストは次の計算式によって試算できます。

2016年のアメリカの国内総生産(GDP)(生成された経済的価値の合計)は、18.7兆米ドルでした33。この計算式を使用して、他の経済大国におけるダーティデータのコストを試算できます(図表2のB列)。情報源からデータを利用できず、経済状況が発展途上であるため、ブラジルや中国などの経済大国はこの分析から除外されました34


出典:a) World Bank, “GDP Current US$,” https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?order=wbapi_data_value_2010+wbapi_data_value+wbapi_data_value-last&sort=desc; b) SME Finance Forum, “MSME Economic Indicators,” https://smefinanceforum.org/data-sites/msme-country-indicators; c) OECD Stat, “Average Annual Wages,” https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=AV_AN_WAGE; d) Countryeconomy.com, “United States (USA) GDP—Gross Domestic Product,” 2016, https://countryeconomy.com/gdp/usa?year=2016; e) Redman, T. C.; “Bad Data Costs the U.S. $3 Trillion Per Year," Harvard Business Review, 22 September 2016, https://hbr.org/2016/09/bad-data-costs-the-u-s-3-trillion-per-year

次に、データ品質不良が従業員に与える影響(つまり、データをクレンジングして使用できるよう準備するために行わなければならない追加作業)を決定できます。各国の経済的活動人口の数(図表2のC列)に基づき、従業員1人当たりのダーティデータの平均コスト(図表2のD列)を算出できます。図表2のデータは収集年が異なるため、この試算にはタイミングの誤差が含まれます。従業員1人当たりの平均賃金(図表2のE列)に基づき、各従業員がデータ品質の問題に使う時間の平均比率(図表2のF列)を算出できます。職種によっては他の職種に比べデータを取り扱う仕事がより多いこともありますが、平均化により、従業員1人当たりで問題の程度を試算できます。

これは、従業員の平均時間の4分の1から3分の1までが、予測が付かない組織のダーティデータの変動の調整に使用されることを意味します。つまり、毎日、毎週、毎月、毎年の最大3分の1が、事業体の顧客に価値を付加する作業に使用されていると言っても過言ではありません。ほとんどの事業体において、ダーティデータのコストは収益の約15~25%を占めています35。風評リスクは、しばしばダーティデータのリスクとして挙げられ36、ダーティデータは事業体の21%の評判にダメージを与えました37

データ品質を改善する取り組みを促進しているのは、どのような取り組みでしょうか?また、主としてどのような問題を解決しようと取り組んでいるでしょうか?58%の事業体は、データ品質を改善する一番の理由として効率性の向上を挙げており、55%は顧客満足度の向上を、51%は情報に基づいた意思決定を挙げています(図表338。さらに、事業体は、不完全なデータ(51%)、古いデータ(48%)、不正確なデータ(44%)にも悩まされています39

不十分なデータマネジメントが支払うコストを(図表2に定量化できるという事実に示すように、事業体固有のデータを使用してトップダウン方式で、また潜在的にはボトムアップ方式でも)定量化できるという事実は、データ品質を向上するためのビジネスケースを作成することから始めると良いことを意味します。これには、問題に対処することにより得られる利益の定量化を含めるべきです。

データトラストの回復:どこから始めるべきか

データの品質低下は、組織の経済性、運営、顧客の 信頼を損なう可能性があります。データの品質は信頼を築く強い力にもなり、企業への信頼を3%、政府への信頼を6.1%高める可能性があります40。データの品質が高い方が収入格差を埋めやすいという強い議論もあります41

あるアンケートでは、組織が情報の信頼性を確保するために十分なことをしていないと回答した割合が42%に上りました42。データの品質に対処することで、データトラストに関する問題の大部分は解決できます。

事業体がデータトラストを再構築するために踏むことができる手順がいくつかあります43

  • データをクレンジングおよび検証する(データ品質)。
  • 運用のメタデータを追加する(データマネジメント)。
  • 個人情報や機密情報を保護する。
  • データトレーサビリティを確保する(すなわち、系列と来歴。データマネジメントのもう1つの要素)。
  • データマネジメントプロセスの可視化と制御を確保する(透明性)。

データの信頼性向上は、以下のデータ特性に左右されます44

  • 透明 — クリーンでコンプライアンスに準拠していることを検証できる
  • 完全 — 関連ドメインの全体像を提供する
  • トレンド — データ消費量の測定
  • 効果 — 検証済みおよびテスト済み

見直しされたデータマネジメントプログラムによりデータトラストを再構築する上で、品質、透明性、追跡可能性、検証可能性は推奨される注目点です。完全であることは、お客様を一望することであり、興味深い考慮事項です。データ消費の測定は、成功を示す最良の指標の1つです。誰もプラットフォームを使用していなければ、その理由はおそらく信頼の欠如です。

目的にかなったデータは単なるIT機能(図表4)ではないため、データ消費(ビジネス)やデータ生産(IT)に関与する役割を含め、多種多様な利害関係者が効果的なデータガバナンスで役割を担っています。実際、データオーナーおよびデータスチュワードがデータマネジメント役として認識されていることには変わりありません。また、データ消費者が問題の管理に参加すると、強いエンゲージメントと賛同が得られ、引いては信頼性と正当性が高まります45

分析において、データトラストは信頼性の4 本柱(データ品質、分析の有効性、データ使用の完全性(データ消費に類似)、レジリエンス)によって定義されます。レジリエンスは、長期的な持続可能性、最適化、ガバナンス、セキュリティに関与します46。とりわけ、

レジリエンス(回復力)は顧客の信頼を勝ち取るための鍵を握ります。たった1回のサービス停止、あるいはたった1件のデータ漏洩が発生するだけで、消費者は(自分で認めた)よりセキュリティの高い競合他社へ簡単に鞍替えしてしまいます47

見直しされたデータマネジメントプログラムによりデータトラストを再構築する上で、品質、透明性、追跡可能性、検証可能性は推奨される注目点です。

データレジリエンス(ガバナンスが十分なデータマネジメントを含む)は、デジタルレジリエンスの基礎です48。データは常に流動的です。これは、適切なコントロールによる積極的なリスク管理がデータレジリエンスに対する本格的なアプローチの一部であることを意味します49。データと分析は、時間をかけて常に進化し続けているため、データの使用方法、データが与える影響、データから生まれるリスクにはシフトが見られます50。こうしたシフトは、事業体のデータレジリエンスに影響を与えます。もしも、起きているシフトのモニタリングを怠れば、深刻な悪影響が出る可能性があります。

プライバシーとセキュリティは、データマネジメントを構成する2つの要素に過ぎないため、データマネジメントに固有の他の多くの要素から分離して考慮されるべきではありません。

データレジリエンスの相互運用性という点では、事業体が自組織のデータ運用の可視性を確保することが重要であり、これは信頼構築の一端を担います。可視化は、データエコシステム全体の相互依存性および相互に関連するリスク要因の特定を容易にします51

データレジリエンスの堅牢性に関しては、アンケートに答えた165名のデータおよび分析の意思決定者のうち、データを変更できるのはその権限を与えられた担当者のみであると回答したのは、わずか52%に過ぎませんでした52。残りは、誰でもデータを変更できると回答しました。データトラストがこれほどまで悲惨な状況にあるのは疑いようがありません。

サードパーティデータからファーストパーティ/ゼロパーティデータへ
データトラストの構築における課題の1つは、サードパーティデータのサプライチェーンおよびエコシステムへの依存を断ち切ることです53。法的責任を制限し、顧客の信頼を再構築して、より正確なパーソナライゼーションを実現するためには、事業体はサードパーティデータの使用から脱却する必要があります54。ファーストパーティデータとは、事業体が通常業務において収集する個人に関するデータを指します。ゼロパーティデータとは、顧客がアンケートに回答するなどの方法で自ら差し出すデータを意味します55

規制当局からの圧力の増大により、サードパーティデータの市場は縮小し、サードパーティデータを使用した結果として個人が長年感じてきたマイナス体験のトレンドが逆転する可能性があります。

データトラストと個人データストア
組織の手にある個人データに対するユーザー、顧客または市民のコントロールの欠如は不信感に拍車をかけています56。(例えば、FacebookやGoogleのデータに対する)コントロールの欠如は、政府、機関、その他の事業体への信頼が低下するという幅広い問題につながります57。データトラストと個人データストア(PDS)は、コントロール強化をサポートするデータマネジメントモデルを代替する手段として最もよく使用されます。特にPDSは、拡張ユーザーコントロールをサポートします。

データトラストは、法律上の信用に基づき、合意された目的のためにデータの独立したスチュワード シップ(管理)を提供する構造です58。これは新しい概念ではなく、何度も議論されてきたテーマです。しかしながら、イギリスで行われた公開調査によると、個人コントロール、規制当局の監視、オプトアウトオプションは、すべてデータトラストより好ましいという結果が出ました59

個人コントロールが好まれるようになると、PDSはデータ管理に関する議論の最前線に出るようになります。PDSは個人のデータを保管し、サードパーティはユーザーがアクセスを許可した場合にのみデータにアクセスできます。ブロックチェーンベースの個人ID製品はPDSをサポートしています。ある調査では、PDSは他の6種類のデータマネジメントモデルよりも好ましいと見なされ、現行のデータマネジメントモデルのスコアは最低でした60

結論

企業、政府、メディア、機関への信頼は、もう何年も下降し続けており、彼らの顧客データを管理し、適切に使用する能力への信頼もその下降トレンドに従っています。さらに、従来のデータマネジメント方法は失敗しているということを示す明確な証拠があります。この証拠の中で大きな割合を占めるのは、データ品質の悲惨な状況です。これらのファクターが組み合わさり、データトラスト、デジタルトラスト、組織全体の信頼にも悪影響を与えています。

データガバナンスとデータマネジメントはリンクしていますが、プライバシーとセキュリティは主にデータマネジメントの視点から考慮されます。欠けているのは、それらのガバナンスに関する議論です。コンプライアンスに関してだけではなく、定義された実行責任と説明責任にもたらされる信頼などの評価尺度の考慮に関しても、議論されていません。また、プライバシーとセキュリティは、データマネジメントを構成する2つの要素に過ぎないため、データマネジメントに固有の他の多くの要素から分離して考慮されるべきではありません。

データトラスト、デジタルトラスト、最終的には組織の信頼強化の問題に対処するための最初のステップは、プライバシーとセキュリティに加え、データマネジメントのサブセット(具体的には、データ品質とメタデータ)にも焦点を当てることです。その他の重要な要素としては、認定、認証、さまざまなデータマネジメントプロセスの可視化の向上があります。成功を測定する指標の1つには、データ消費の増大が挙げられます。

情報化の時代、優れた組織の信頼は優れたデジタルトラストに依存し、優れたデジタルトラストは、事業体のITだけではなく、保有するデータの信頼の強化にも依存します。データの観点から見ると、データトラストは、プライバシーとセキュリティ、データ品質とメタデータに注意を払い、目的にかなっていることを保証する能力を示すことで構築されます。

後注

1 Kinder, T.; "KPMG Sued for $830mn Over 'Appalling’ Chinese Audit," Financial Times, 5 September 2022, https://www.ft.com/content/07af027a-a1ed-4847-bcfc-263ce9b48a03
2 O’Dwyer, M.; "KPMG Hit With Half of UK Accounting Fines as Penalties Reach New Record," Financial Times, 28 July 2022, https://www.ft.com/content/73e48574-673a-4725-9b78-ba940a8060f5
3 US Securities and Exchange Commission, "Ernst & Young to Pay $100 Million Penalty for Employees Cheating on CPA Ethics Exams and Misleading Investigation," 28 June 2022, https://www.sec.gov/news/press-release/2022-114
4 Ellis, C.; "PwC Canada Fined Over One Million CDN by US, Canadian Regulators," Canadian Accountant, 1 March 2022, www.canadian-accountant.com/content/profession/pwc-canada-fined-by-us-canadian-regulators
5 Chartered Professional Accountants (CPA) Canada and American Institute of Certified Public Accountants (AICPA), The Data-Driven Audit: How Automation and AI Are Changing the Audit and the Role of the Auditor, Canada, 2020, https://us.aicpa.org/content/dam/aicpa/interestareas/frc/assuranceadvisoryservices/downloadabledocuments/the-data-driven-audit.pdf
6 Wong, J.C.; "The Cambridge Analytica Scandal Changed the World—But It Didn’t Change Facebook," The Guardian, 18 March 2019, https://www.theguardian.com/technology/2019/mar/17/the-cambridge-analytica-scandal-changed-the-world-but-it-didnt-change-facebook
7 Edelman, Edelman Trust Barometer 2022, USA, 2022, https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/2022-01/2022%20Edelman%20Trust%20Barometer%20Global%20Report_Final.pdf
8 Michels, D.; "The Trust Crisis in Business," Forbes, 17 June 2019, https://www.forbes.com/sites/davidmichels/2019/06/17/the-trust-crisis-in-business/?sh=5418ceef44a6
9 Vavreck, L.; "The Long Decline of Trust in Government, and Why That Can Be Patriotic," The New York Times, 3 July 2015, https://www.nytimes.com/2015/07/04/upshot/the-long-decline-of-trust-in-government-and-why-that-can-be-patriotic.html
10 Harrington, M.; "Survey: People’s Trust Has Declined in Business, Media, Government, and NGOs," Harvard Business Review, 16 January 2017, https://hbr.org/2017/01/survey-peoples-trust-has-declined-in-business-media-government-and-ngos
11 ISACA®, Digital Trust: A Modern-Day Imperative, USA, 2022, www.isaca.org/digital-trust-modern-day-imperative
12 PricewaterhouseCoopers (PwC), "In Data We Trust: Living Up to the Credo of the 21st Century," https://www.pwc.com/us/en/services/consulting/cybersecurity-risk-regulatory/library/defining-data-trust-strategy.html
13 Ibid.
14 Ibid.
15 Bianchi, T.; "First-Party Data Key to Rebuilding Trust in Online Platforms," AI Magazine, 23 July 2022, https://aimagazine.com/data-and-analytics/first-party-data-key-to-rebuilding-trust-in-online-platforms
16 Morey, T.; T. Forbath; A. Schoop; "Customer Data: Designing for Transparency and Trust," Harvard Business Review, May 2015, https://hbr.org/2015/05/customer-data-designing-for-transparency-and-trust
17 Harrington, S.; "You Can’t Build Trust Through Transparency," The People Space, 14 November 2018, https://www.thepeoplespace.com/ideas/articles/you-cant-build-trust-through-transparency
18 Lagarde, C.; "There’s a Reason for the Lack of Trust in Government and Business: Corruption," The Guardian, 4 May 2018, https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/may/04/lack-trust-government-business-corruption-christine-lagarde-imf
19 Kinch, N.; "Data Trust, by Design: Principles, Patterns and Best Practices (Part 1)," Medium, 22 February 2018, https://medium.com/greater-than-experience-design/data-trust-by-design-principles-patterns-and-best-practices-part-1-defffaac014b
20 Talend, "What Is Data Trust?" https://www.talend.com/resources/what-is-data-trust/
21 Mohrmann, R.; "Most Technology Projects Fail. What Is Your Data Management Plan?" Datafloq, 23 February 2018, https://datafloq.com/read/technology-projects-fail-data-management-plan/
22 Westenberger, J.; K. Schuler; D. Schlegel; "Failure of AI Projects: Understanding the Critical Factors," Procedia Computer Science, vol. 196, 2022, p. 69–76, https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877050921022134/pdf?md5=2846ce14f794d777a06b39fdcb82781d&pid=1-s2.0-S1877050921022134-main.pdf
23 Bean, R.; "The 'Failure’ of Big Data," Forbes, 20 October 2020, https://www.forbes.com/sites/randybean/2020/10/20/the-failure-of-big-data
24 Choudhury, A.; "What Is Data Democratization? Definition and Principles," Amplitude Blog, 27 January 2022, https://amplitude.com/blog/data-democratization#:~:text=Data%20democratization%20is%20the%20ongoing,customer%20experiences%20powered%20by%20data
25 Zentao, "Reasons for Data Governance Project Failure," 13 July 2022, https://www.zentao.pm/blog/reasons-for-data-governance-project-failure-1268.html
26 Ibid.
27 Schmidbauer, S.; "Five Reasons Your Data Governance Initiative Could Fail," Stibo Systems, 24 January 2022, https://www.stibosystems.com/blog/five-reasons-your-data-governance-initiative-could-fail
28 Bradshaw, A.; "Why Your Data Governance Strategy Is Failing," Alation, 5 October 2021, https://www.alation.com/blog/data-governance-strategy-failing/
29 Ibid.
30 Mathieson, S. A.; "UK Government Coronavirus Data Flawed and Misleading," ComputerWeekly, 6 October 2020, https://www.computerweekly.com/feature/UK-government-coronavirus-data-flawed-and-misleading
31 Ibid.
32 Redman, T. C.; "Bad Data Costs the U.S. $3 Trillion Per Year," Harvard Business Review, 22 September 2016, https://hbr.org/2016/09/bad-data-costs-the-u-s-3-trillion-per-year
33 Countryeconomy, "United States (USA) GDP—Gross Domestic Product," 2016, https://countryeconomy.com/gdp/usa?year=2016
34 Worlddata, "Developing Countries," https://www.worlddata.info/developing-countries.php
35 Grensquared, "Top 5 Data and Analytics Challenges and How to Conquer Them," 28 March 2022, https://www.gensquared.com/5-challenges-business-and-it-leaders-face-when-launching-data-analytics-projects/
36 Pearce, G.; "Quantifying the Impact of Data Projects," The Data Administration Newsletter (TDAN), 5 July 2017, https://tdan.com/quantifying-the-impact-of-data-projects/21760
37 RingLead, "The Cost of Dirty Data," https://www.ringlead.com/blog/the-cost-of-dirty-data
38 Brooke, C.; "What Is Poor Data Quality Costing You?" Business 2 Community, 9 May 2016, https://www.business2community.com/marketing/poor-data-quality-costing-01539520
39 Ibid.
40 Op cit Edelman
41 Ibid.
42 Ibid.
43 Bluemetrix, "Five Ways to Build Trust in Data, While Improving Access to Data," https://www.bluemetrix.com/post/5-ways-to-build-trust-in-data-while-improving-access-to-data
44 Talend, "Five Principles for Increasing the Trustworthiness of Your Company’s Data," Harvard Business Review, 30 July 2020, https://hbr.org/sponsored/2020/07/5-principles-for-increasing-the-trustworthiness-of-your-companys-data
45 Barzelay, A.; M. Veerappan; M. Lucey; "Promoting Trust in Data Through Multistakeholder Data Governance," World Bank Blogs, 13 December 2021, https://blogs.worldbank.org/opendata/promoting-trust-data-through-multistakeholder-data-governance
46 KPMG, "Building Trust in Analytics," Netherlands, 2016, https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/xx/pdf/2016/10/building-trust-in-analytics.pdf
47 Ibid.
48 Pearce, G.; "Data Resilience Is the Cornerstone of Digital Resilience," ISACA Now, 27 July 2022, https://www.isaca.org/resources/news-and-trends/isaca-now-blog/2022/data-resilience-is-the-cornerstone-of-digital-resilience
49 Pearce, G.; "Real-World Data Resilience Demands an Integrated Approach to AI, Data Governance and the Cloud," ISACA® Journal, vol. 3, 2022, https://www.isaca.org/archives
50 Op cit KPMG
51 Ibid.
52 Ibid.
53 PricewaterhouseCoopers (PwC), "Data Trust," https://www.pwc.com/ca/en/services/consulting/cybersecurity-privacy/data-trust.html
54 Op cit Bianchi
55 Ibid.
56 Nesta, "The New Ecosystem of Trust," https://media.nesta.org.uk/documents/nesta.org.uk-The_new_ecosystem_of_trust_-_printable.pdf
57 Ibid.
58 Hartman, T.; H. Kennedy; R. Steedman; R. Jones; "Public Perceptions of Good Data Management: Findings From a UK-Based Survey," Big Data and Society, January–June 2020, https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/2053951720935616
59 Ibid.
60 Ibid.

GUY PEARCE | CGEIT、CDPSE

コンピューター科学と商業学を学び、主にサービスセクターにおける戦略的リーダーシップとガバナンス機能、ITガバナンス、主に金融サービスにおける事業体ガバナンスに携わってきました。顧客と組織の双方向の価値創造と、新技術の効果的な統合及びその有益な採用とを両立させる、デジタルイノベーターとして一貫したキャリアを積んできました。1999年からは、デジタルトランスフォーメーションに積極的に関与し、効果的な導入を確保するため、新たに出現する技術の人とプロセスを組織に統合することに注力しました。1989年、ピアスは初めて人工知能(AI)に触れ、以来数十年はシンボリックAIから統計的AI領域への進化を追究しました。ITガバナンスへの貢献により、「2019 ISACA® Michael Cangemi Best Author」アワードを受賞し、現在は、持続可能なITアーキテクチャおよび健全なガバナンス、デジタルトランスフォーメーション、データガバナンス、ITガバナンスによって縛られたデータの丁重かつコンプライアンスに準拠した使用に関するコンサルティングを行っています。