組織文化の監査

Author: Kevin M. Alvero, CISA, CDPSE, CFE
Date Published: 22 September 2022
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内部監査人の前で口にすると、おそらく最も緊張を強いるのは次の言葉でしょう。「当社では文化監査を実施する予定です」

所与のプロセス内のさまざまなリスクに焦点を絞った監査を中心にキャリアを積んでいる内部監査人は、必ずしも定量化できない行動、思考、活動が関与する幅広い範囲の要素に注意を向けなければならないことを敬遠するからといってとがめられません。この種の監査は、多数の個人による潜在的なコンダクトリスクと深く結び付いていることで、より厄介となることで気後れしてしまいます。

文化監査には、経営者の姿勢が従業員の行動や活動にどのような影響を与えるかについて、正確にレビューするために、組織の主観的価値観や目に見える従業員の行為のあらゆる要素が含まれます。こうした活動は、業務、評判、関係性、財務的成果に大きな影響を与え、組織が将来的に成功する可能性に欠かせない要素となります。文化は取り組むには難しいテーマですが、潜在的な恩恵は明らかに努力に見合う価値があります。AuditBoardでは、次のように述べています。

職場の文化は、全体的な成功を予測する上で最も重要な要素の1つと見なされます。組織が現状を査定し、認識されていない文化的問題が組織の成功を阻む前に是正処置を講じることを可能にするため、文化監査は重要です。文化監査を行うと、経営者は、有害な経営、人種や性別による差別、士気の低下、高い欠勤率、生産性低下、高い離職率などの[ネガティブな]問題に対処しやすくなります。1

では、内部監査チームはどのようにして文化監査を実施するのでしょうか?とりわけ、文化の主観性が監査人を快適な領域から排除してしまう場合、どうすれば良いのでしょうか?汎用性のあるアプローチはありませんが、内部監査人は、内部統制評価のためのトレッドウェイ委員会支援組織委員会(COSO)フレームワークをよく理解し、組織の統制環境の諸要 素を査定するために使用されるプロセスから得られた経験を以下のように活用できます。

  • 誠実で倫理的な価値観を実践する
  • 能力に対してコミットする
  • 経営者の理念や経営スタイルを促進する
  • 権限と責任を割り当てる
  • 人事ポリシーと手続を活用する

文化監査を実施する際には、利害関係者や従業員の目を通じて組織文化を理解するために匿名アンケートをたびたび使用するなど、インタビューと直接観察に比重を置く必要があります。これらは、組織文化を評価し、関係者が組織の価値をどのように受け止めているか知るための最も効率的かつ効果的な手段として日常的に認識されています。

内部監査の結果、現場での監査段階でレビューすべき傾向と潜在的な問題を明らかにするアウトラインを提供します。同時に、この事前作業段階では、経営者が提示した文化が文書化されます。内部監査チームは、ミッションおよびビジョンの声明、行動規範、ホットラインおよび内部告発ポリシー、懲戒処分基準、賃金および給与公平性ポリシー、インセンティブおよび福利厚生ポリシーなどの幅広い正式文書をレビューすべきです。個別の結果は、雑然とした状況しか反映しないかもしれませんが、集計してアンケート、インタビュー、観察の結果と比較されると、不一致があればより大きなトレンドが指摘され、最終的に問題の根本原因にることができます。

すべての組織がこのように大きな比重を文化に置いているとは限りませんが、文化監査は、組織の目標が文化の良好な影響に関連して達成されているかどうかについて関与すべきです。

ポリシーは必要かつ重要ですが、文化査定の重点的な取り組みはトップの姿勢の設定から始め、継続しなければなりません。上級経営者、中間管理職、一般従業員がどのように対話するかを理解することで、組織の姿勢を上位レベルで理解できます。2019年の文化監査に焦点を当てた研究論文では、「文化は良くも悪くも企業の業績に貢献する重要な要素である」と記されています。

経営者が商業主義よりもプロ意識を重視し、倫理的判断を促進して、システム、スペシャリストの取り入れ、対人相互作用を通じて学習を促進する場合、監査法人の文化は、品質を最も重視しています。経営者は、組織のトップが自ら姿勢を見せることで、プロ意識によって導かれる文化を実現すべきです。2

調査結果は、首尾一貫した文化の基盤が、すべてのレベルで行動を形成する共通の信条と価値観に立脚することを認識した上で、レビューのため報告されるべきです。しかし、組織の文化は地域や国、あるいは組織の部門間でさえも異なる場合があります。ある集団には効果的な要素も、他ではうまく機能しないことがあります。

事例づくり

組織の短期的および長期的な成功に関して、文化はかなりの割合の重要性を占めますが、全米内部監査人協会の「2021 North American Pulse of Internal Audit」では、ガバナンスと文化に割り当てられる監査活動の割合は、わずか4%に過ぎないことが明らかになりました。業務、財務、IT、サイバーセキュリティ、不正の監査に圧倒的な割合の時間が費やされている場合、内部監査が組織の文化に好影響を与えるかどうかに疑問を持つのは論理的に妥当です。内部監査の対象に文化を追加することには、より大きな比重を置かなければなりませんが、そのためには、文化監査の取り組みが実行可能であり、認められる利益があることを納得させる必要があります。

なかには、内部監査部門に効果的な文化監査を遂行す る能力がないと信じている組織もあります。その場合、サービスプロバイダーと契約する選択肢があります。過去20年間にわたり、事業体文化に関する外部監査およびコンサルティング業界は活況を呈し、組織文化を主導したり貢献したりするために、外部の専門知識を活用する数多くの選択肢を提供するようになっています。こうしたスペシャリストは、組織文化の発見、査定、明確化に優れています。

しかし、すでに強固な組織文化が育まれていると信じ、包括的で長期的プロセスを完了するために必要な時間、労力、経費の支出を惜しみ、96%の労力がすでに費やされている監査作業領域を重視する組織が出てくるのも当然です。その場合、組織文化を査定する構成要素について、経営者の視野が狭すぎる可能性があります。経営者は、事業体文化が組織の目標をリスクにさらしていないか確認するための手段として文化監査を考える傾向があります。言い換えれば、経営幹部は、攻撃的、排他的、違法または非倫理的な、悪い行動、非生産的な態度、不文律などの危険信号がないことを確実にするために、文化監査を否定的に捉えています。しかし、それは文化監査の一側面に過ぎません。

組織によっては、文化は丹念に作り上げられ、組織の評判、従業員満足度、従業員エンゲージメント、最終損益にプラスの貢献をする要素になることが期待されています。丹念に作り上げられた文化を持ち、それを組織の成功に欠かせない要素と見なしている事業体の例として、Zapposがあります。Zapposの文化では、エンパワーメント、クリエイティビティ、従来型の階層構造の否定を重視しています。そのウェブサイトには次のように記載されています。

私たちは、正しく文化を育めば、他の大半の要素(優れたカスタマーサービスの提供や、長期にわたり揺るぎないブランドまたはビジネスの構築など)は自然に付いてくると信じています。3

すべての組織が文化をそれほど強調しているとは限らないが、組織の目標の少なくとも一部は組織文化によって実現されるかどうかについて、文化監査として関心を持つべきです。

同時に、内部監査は、何が優れた文化で何がそうではないかについての先入観に縛られていないことを経営者に伝達すべきです。暴言など、誰もが認める危険信号はありますが、良い文化と悪い文化の違いは必ずしも白黒つけられるとは限りません。例えば、報道によれば、SpaceXの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、2021年11月末の金曜日に、次のような警告メールを従業員宛に送信しました。

…会社は厳しい状況にあり、全社員(自身も含む)は仕事に復帰して欲しい。SpaceXが翌年辺りに破産を免れるためには、全員がはやく職場復帰して仕事に精を出し、状況を好転させる必要がある。4

経営者のコミュニケーションスタイルは、文化監査の中核を担う要素であるべきです。SpaceXの事例では、メッセージの口調とタイミングは、文化の観点から危険信号と見なされるかもしれませんが、一部の従業員は、少なくとも一定期間は危機感を持ち、プレッシャーを感じながら仕事に邁進しました。したがって、文脈を考慮しながらこうしたメッセージを評価するのは、内部監査の責任です。

職場文化に比重を置くと、組織は雇用時に大きな余裕が生まれます。その結果、募集職種への関心が高まり、候補者の資質と特定の職種ニーズをより効果的にマッチさせることができます。

文化監査では、経営者にとって魅力的と受け取れる、効率性も明らかになる場合があります。一部の組織では、文化を重視するイニシアティブに対して 「多ければ多いほど良い」アプローチを採用しています。しかし、他のビジネスイニシアティブと同様に、長い目で見ると、活動が望み通りの効果を発揮しなかったり、現状に関連性を持たなかったりする可能性があります。その場合、内部監査により、中止を検討すべき活動やイニシアティブを特定すると、作業時間や資金の面で定量可能な節約につながる可能性があります。

当初の思考プロセスに関係なく、文化監査の重要性は否定できません。ある著者は次のように語ります。

会社の規模や業種に関係なく、文化は重要です。監査を実施するのに「適切な」タイミングはありませんが、先延ばしにしても内部の問題は解決せず、成長の機会が阻害されるだけで、問題に目をつぶっても解決することはないのです。5

新しい従業員と人材募集

文化監査では、組織のあらゆるレベルにおける現在の従業員の評価が最も重視されるのは当然ですが、他に重要なものは、文化が新たな人材の雇用にどのような影響を与えるかを見定めることです。インターネットが組織のイメージを作りもすれば壊しもする時代には、組織の内外で強固な文化を推進することが極めて重要です。候補者は、従業員のレビューを含むソーシャルメディアの投稿を簡単に閲覧し、組織に勤務しているとおぼしき人物にショートメッセージや電話で簡単に連絡を取ることができます。売り手市場では、競争相手に先んじて新たな人材を採用・確保することは、明確なアイデンティティ、ブランド、雇用イメージにより持続可能な組織の成功を促進する強固な組織文化に左右されます。

現在の職場変革の中心にいるのは、ミレニアル世代です。彼らは、他のすべての要素よりも強固な文化を重視することが多いです。この分野が欠けている組織は、人材を競争相手に奪われてしまうおそれがある。ある著者は次のように述べます。「組織に強固または魅力的な文化がない場合、人材獲得競争に敗れ始めるでしょう - それも急速に」。6

組織全体で強化され(現在の従業員によって証明された)文化的に一貫した理想的な行動に焦点を絞ると、人材獲得が容易になります。職場文化に比重を置くと、組織は雇用時に大きな余裕が生まれます。その結果、募集職種への関心が高まり、候補者の資質と特定の職種ニーズをより効果的にマッチさせることができます。

最後に、事業体全体の文化は、新規採用者の入社時に極めて重要な役割を果たします。組織全体で誰でも受け入れ、活発で、先を見据えた考えを重視する姿勢を前面に打ち出すことで、入社したばかりの従業員でも積極的にイノベーション、製品とサービスの成長、顧客とベンダーの関係、財務実績を促進する力が与えられます。

組織の財務およびリテンション率の影響

試金石として、Grant Thornton LLPとOxford Economicsによって実施された「Return on Culture」調査は、収益2億~50億米ドルの米国事業体に勤める1,000名のプロフェッショナルから集めたアンケートデータに基づいています。調査結果は以下のとおりです。

  • 組織文化が極めて健全と回答した経営幹部の方が、過去3年に平均収益成長率が15%を超えたという報告の割合が1.5倍多くなっています。
  • 上場企業へのアンケート回答者のうち、組織文化が極めて健全と回答した経営幹部の方が、過去3年間に大幅な株価上昇があったという報告の割合が約2.5倍多くなっています。7

この調査では、良好な組織文化と従業員の離職率低下との間に相関関係が見られました。組織文化が極めて健全と回答した回答者の45%(全体では29%)は、組織に残る年数が6年を超えていました。また、 49%は、組織文化が良好な組織であれば、給料のより低い仕事のために、現在の職種を離れることもありと回答しました。8

逆に、有害な職場文化は、組織の最終損益に重大な影響を与える可能性があります。業績不振が多いなど、従業員が不満を抱いている組織では、信頼が事実上存在しないため、高い離職率が定着しています。「Dying for a Paycheck」という書籍では、「米国では、有害な職場と仕事のストレスにより、毎年 3,000億米ドルを超えるコストがかかっている」と述べられています。9

結論

文化監査を実施する重要性を否定する者は、もはやその実務に関する業界知識の不足を、主張の根拠とすることはできません。「Return on Culture10 などの調査は、組織文化の健全性が事業体の成功に測 定可能な影響を与えるという理論を裏付ける経験的証拠を提供しました。もちろん、遅かれ早かれ、組織は倫理的行動を示しているか、公平で多様性のある誰でも受け入れる職場を推進しているか、規定された価値観と整合するように行動しているかどうかに関して、問われることになるでしょう。こうした質問に対し、外部当事者から話題を切り出される前に、組織は自らに問いかけ、内部調査によって回答を出す方がより良いです。

後注

1 AuditBoard, “Culture Audits: Three Tips to Assessing Your Corporate Culture,” 27 September 2021, https://www.auditboard.com/blog/culture-audits-3-tips-for-assessing-your-corporate-culture/
2 Alberti, C.; J. Bedard; O. Bik; A. Vanstraelen; “Audit Firm Culture: Recent Developments and Trends in the Literature,” European Accounting Review, 2020, https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09638180.2020.1846574
3 Zappos, “Why Culture Matters,” https://www.zappos.com/about/why-culture-matters
4 Murphy, B.; “Elon Musk Just Sent an Alarming ‘All Hands’ Email: He Taught a Powerful Leadership Lesson in the Process,” Inc., https://www.inc.com/bill-murphy-jr/elon-musk-just-sent-an-alarmingall-handsemail-taught-a-key-leadership-lesson-in-process.html
5 Cancialosi, C.; “Culture: The Most Overlooked Element of Audits,” Forbes, 29 September 2014, https://www.forbes.com/sites/chriscancialosi/2014/09/29/culture-the-most-overlooked-element-of-audits/?sh=6413a88922b8
6 Alton, L.; “Why Corporate Culture Is Becoming Even More Important,” Forbes, 17 February 2017, https://www.forbes.com/sites/larryalton/2017/02/17/why-corporate-culture-is-becoming-even-more-important/?sh=5ea49e969dac
7 Grant Thornton, “Culture Payoff: Looking for ROI in All the Right Places,” 28 March 2019, https://www.grantthornton.com/insights/articles/advisory/2019/return-on-culture/looking-roi-in-all-right-places
8 Ibid.
9 Pfeffer, J.; P. Grims; et al.; Dying for a Paycheck, Harper Business, USA, 2018
10 Op cit Grant Thornton

KEVIN M. ALVERO | CISA, CDPSE, CFE

Nielsen Companyの内部監査、コンプライアンス、ガバナンス担当シニアバイスプレジデント。事業体のグローバルメディア製品およびサービスを広くカバーする、内部品質監査プログラムと業界コンプライアンスイニシアティブの先頭に立って指揮しています。